実践心理学科:川瀬ゼミの紹介

 

川瀬良美プロフィール



☆神奈川県生まれ。

☆日本女子大学大学院博士後期課程修了(博士学術)。

☆専門は発達心理学および発達臨床心理学。

☆現在、淑徳大学総合福祉学部で「発達心理学概論」「女性発達心理学」など教鞭とる傍ら、大学院で臨床心理士養成に関わる。また、臨床心理士として、不登校児童生徒の保護者支援、子育て相談、発達相談などを行っています。

☆著書 『児童の内発的達成動機づけについての心理学的考察』(単著)、『月経の研究-  女性発達心理学の立場から』(単著)『月経らくらく講座』(分担執筆)など。

 

 

著書1 『児童の内発的達成動機づけについての心理学的考察』

 

 

 

著書2 『月経の研究-  女性発達心理学の立場から』

 

 

 

 

著書3 『月経らくらく講座』

 

 

 

 

 

川瀬ゼミの紹介

 

☆ゼミでの活動

 

 大乗淑徳大学山中湖研修所にて合宿を行います。23日でみっちりと論文作成について中間発表をします。学部の3年生と4年生、大学院の修士課程1年生と2年生、また博士課程の学生も加えて、有意義で楽しい交流の時間となります。

 この研修所は、平成23年度をもって閉鎖されてしまったのは残念でした。

 

 

 

     山中湖研修センターの庭

 

 

 

 

 

 熱心に勉強をするゼミのメンバー

 

 

 

 

       研修所での朝食

 

 

 

 

 

☆ゼミの卒業文集

 

 川瀬ゼミでは、卒業する4年生へ記念品として、3年生が文集を作って贈ります。その文集に、川瀬は大好きな「茨木のり子」さんの詩を添えて、毎年このような内容のメッセージを送り続けています。

 

好きな詩

 

 「自分の感受性くらい」 

                             茨木 のり子 作

 ぱさぱさに乾いてゆく心を

 ひとのせいにはするな

 みずから水やりを怠っておいて

    

 気難しくなってきたのを

 友人のせいにはするな

 しなやかさをうしなったのはどちらなのか

 

 苛立つのを

 近親のせいにはするな

 なにもかも下手だったのはわたくし

       

 初心消えかかるのを

 暮らしのせいにはするな

 そもそもが ひよわな志にすぎなかった

                                            

 駄目なことの一切を

 時代のせいにはするな

 わずかに光る尊厳の放棄

 

 自分の感受性くらい

 自分で守れ

 ばかものよ

 

 詩集 『自分の感受性くらい』(花神社) 1977年

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平成23年度 日本発達心理学会での発表要旨から、近年の月経問題への川瀬の視点を読み取ることができる

 

題目 「女性の健康な発達はどうあるべきか-月経とライフスタイルの関係からの検討-」

発表者 川瀬 良美(淑徳大学)

 

発達の定義が生涯発達の概念でとらえられるようになって、発達とは前進的に増大する変化のみではなく、後退的に衰退する変化も含まれるようになった。これまでの発達段階の区分では、身体発達において性別の相違があることが明らかにされており、身体発達においては女児の成熟が男児に比較して早いが、それも青年期には差が無くなるとされる。発達における性差を社会的な視点からみるとジェンダー問題ということになるが、そこで期待される発達はジェンダー化されたアイデンティティの獲得といえよう。時代の変遷の中で、女性の社会的役割、自己実現のあり方が変化しているとはいえ、大きな枠組みとしての社会制度が変わらない中で、女性の葛藤は依然として存在している。

 

伝統的な女性の性役割としてあげられるのが出産と育児である。出産と育児だけが役割とされた時代は去ったが、中でも出産の役割は機能的に女性のみが担わざるをえない。身体生理的な機能としての生殖に関わる役割は、身体的に健康な発達をとげていることが前提となり、機能として成熟している限定的な期間という制約がある。その結果、この制約は女性の自己実現において、ライフスタイルを決定する重要な要因となる。

 

伝統的な性役割において、女性の重要な役割であった出産という生殖行動を、生殖年齢期間中でも人生設計によって止めてしまうことは「静かな革命」(荻野、1994)と呼ばれるほど画期的なことであったが、出産と育児に疲弊する女性の健康においては福音をもたらしたといえる。一方で、変わらない社会認識の下では、産まない自由はそれほど女性を解放した訳ではなく、対外受精などの生殖医療技術による新たな展開が、女性の自由なライフスタイルを制約するという影響をもたらしている。

 

このような問題意識とは別に、発達における生殖機能の成熟と社会生活における生殖行動との乖離が、女性の健康を蝕む原因になっていると指摘されている。思春期を経て青年期には排卵を伴う成熟した月経周期となり、実質的に生殖可能な年齢となる。その後、妊娠することが無ければ、月経を繰り返すことになる。この月経の繰り返しが長期にわたることによって「医学的障害」をもたらし、その障害としては月経前症候群、周経期症候群、月経痛症そして卵巣癌発症のリスクの増大などが指摘されている。これらの指摘からは、女性の健康な発達とライフスタイルにおいて生殖機能への対処が必要であることを示唆している。

 

女性の発達において、月経の発来と周期的な排卵は女性の健康な身体発達の象徴であると教育されてきた。月経が3周期途絶えた場合には専門機関を受診して、その閉止が長期化しないように指導されている。しかし、月経の医学的障害のための方策として、排卵を抑制することにより月経周期回数を減少させることが有効であると医学の立場からは推奨される。その矛盾した身体へのアプローチは、女性の発達における健康な身体観に影響を与えると考えられる。

 

調査結果によると(川瀬、2009)、月経を抑制することは身体に悪影響を与えるであろうとの認識が強く、月経を健康の象徴として周期的な月経の存在への認識は確固たるものであることが明らかになった。しかし月経の医学的障害を予防するために月経を抑制することが推奨されていることをレクチャーされた後には、「月経は出産時のみあればよい」「月経が無ければ良い」という、月経の存在への否定的な認識が有意に上昇した一方で、「月経は女性の象徴である」「無月経は危機的なできごとである」とする月経の肯定的認識は有意に低下した。

 

本調査の結果では、月経は女性の象徴でありその停止は危機的なこととの認識が強いとはいえ、月経随伴症状を「医学的障害」として認識させる教育は大きな影響があった。この結果から、女性の健康な発達においては、月経とライフスタイルはいかにあるべきかについての認識の変容が必要であり、この観点から月経問題は、さらに検討される必要がある。

 

文 献

川瀬良美 2009 女性発達における月経の意義と月経不要論-大学生の月経に関する認識からの検討- 淑徳大学総合福祉学部研究紀要、4349-69

荻野美穂 1994 生殖の政治学 フェミニズムとバース?コントロール 山川出版